金融危機と会計の進化
近い将来、米国の会計基準がなくなる−。専門家の間で昨年来、こんな筋書きがささやかれている。きっかけは、米国の会計基準づくりを担う米財務会計基準審議会(FASB)のボブ・ハーツ議長の発言だ。「質の高い国際的な会計基準が、ひとつあればよいと思う」
米国で信用力の低い住宅融資(サブプライムローン)問題が深刻さを増していた昨年12月、米公認会計士協会の会合でこんな趣旨の発言をした。米企業も欧州で普及する国際会計基準を使ったほうが、投資家のためになるという考えだ。その代わりに、今は欧州色の強い国際会計基準づくりに米国やアジアの考え方を反映させるような仕組みづくりをつくる。発言はそんな含意もあった。
日本は米国を手本に会計の整備を進めてきたが、世界の約百カ国で使われているのは1970年代からつくられ始めた国際会計基準。M&Aの規定など、二つの基準は相違点も少なくない。
住宅バブルの崩壊という米国の国内問題が証券化商品を通じて瞬時に世界を巻き込んだことは、予想を超える速さで進む金融市場のグローバル化を印象づけた。
市場の重要なインフラである会計基準は、金融危機のたびに強化されてきた。97年のアジア金融危機では7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁などの場で、民間が取るべき対策として「国際会計基準の整備」が挙げられた。アジア企業の不透明な財務内容が投資マネーの逃げ足を速めたからだ。
2002年のエンロン事件では、会計操作に悪用された簿外の特別目的会社(SPC)を連結決算に反映させる方向で、米国基準と国際基準が強化された。しかし今回のサブプライム危機は、エンロン事件の対応策がまだ十分でなかったことを印象付けた。
象徴的なのが有力銀行の簿外ヘッジファンドとも呼べる「SIV(ストラクチャード・インベストメント・ビークル)。短期資金を調達して証券化商品に投資するファンドだったが、サブプライム問題のあおりで資金繰りに窮した。米シティグループは合計7本、総額490億ドルのSIVを唐突に連結する表明、情報開示の不透明さへの批判は今もやまない。
簿外の金融活動をいかに分かりやすく連結決算に反映させるか。エンロン事件後、米欧の会計士たちは、このテーマに継続的に取り組んできた。今の米国の連結ルールは「価格の変動や破綻のリスクを最も多くかぶる企業が連結する」というもの。裁量の余地が大きいため、SIVのような取引を残す結果となった。
国際会計基準審議会のデービッド・トウィーデイー議長はこのほど、問題に対応するため、「数ヶ月以内に連結決算を厳格化する新基準のたたき台をまとめる」と表明した。米国も協力する姿勢を見せている。
日本の関係者も「サブプライムローン問題の影響は軽い」と言わずに、議論の参加したほうが良い。さもなければ急ピッチで進む会計の米欧統合に取り残され、東京市場はますます世界から切り離されてしまう。